コーマック・マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』(1973)

チャイルド・オブ・ゴッド

チャイルド・オブ・ゴッド

 

★★★★

アメリカ南部。貧乏白人のレスター・バラードは、車の中にあった男女の死体を発見してから人生が一変する。彼は女を死姦してそのまま死体を持ち帰り、家が火事になったあとは知人の娘をライフルで撃ち殺すのだった。

昔のほうが悪い奴が多かったと思いますか、と保安官補が訊いた。
老人は水に浸かった町を眺めやった。いやそうは思わんね。人間てのは神様がつくった日からずっと同じだと思うよ。(195)

最初に読んだ著者の本が『すべての美しい馬』(1992)だったので、その後に翻訳された『ブラッド・メリディアン』(1985)には度肝を抜かれたのだけど、本作を読んで著者の作風はむしろ後者が本流なのだなと思った。つまり、犯罪や暴力を叙事詩のように書いていくスタイル、ということである。

徹底的に心理描写を省き、会話文にはカギ括弧をつけず、地の文にはほとんど読点を使わないその文体は、まさに本来的な意味でのハードボイルドで、それが神話的・叙事詩的な雰囲気を醸し出している。と同時に、アメリカ南部の乾いた大地、さらには土俗的な生活にぴったりマッチしていて、20世紀が舞台なのにどこか西部開拓時代を彷彿とさせる。そこには現代日本では見られない生きていくことの厳しさが表れていて、これぞ外国文学を読む醍醐味だなとしみじみ思う。

そういうハードな世界観が著者の魅力なので、理不尽な暴力が淡々と描かれていくことに快感すら覚えてしまう。そして、普通のミステリだったら犯行の動機が明かされるところ、本作ではそういうことがまったくないので、人間の原始的な本質に迫っているような神々しさが感じられる。

個人的に、現代アメリカ文学で一番好きな作家かもしれない。